レスキューヘリを呼ばない為の安全な登山計画の立て方

休日に思いついたように登山。ずっと歩き続けた道は、どうやら登山道ではないような・・。手元には地図も無ければ携帯も無い。ここはどこ?雨が降り始めて辺りも暗い、不安で楽しさは無い。こんな状況を回避する、安全で快適な登山計画の立て方。




無計画な登山で起こるアクシデント

■道迷い


無計画な登山は道迷いを誘発します。それは以下のようなケースです。



  1. 難し過ぎるルートを登っており、技術と体力と経験が不足している
  2. 困難な季節に登山している。
  3. 地図を持参しておらず、現在位置を確認できない。
  4. 登山開始が遅すぎて、夜になった。

いずれも、ガイドブック・地図・情報サイト等で、事前に難易度・コースタイム・目印・装備を調べて、準備すれば対応出来ます。スマホはバッテリーの消耗に注意します。道迷いになりそうな時や、緊急時の連絡ツールとして活躍するからです。予備バッテリーを携行するなど、いつでも使用できるようにします。

■歩行不能


登山では歩行不能になることがあります。代表的な原因を知れば、計画段階でリスクを減らすことができます。

  1. 足のねんざ
    簡単なねんざはテーピングでカバーできます。計画時にテーピングを携行することを忘れなければ、歩行不能を回避することができるでしょう。
  2. ケガ
    転倒や落石など、山にはケガのリスクがあります。登る山に、落石地帯があることが分かれば、ヘルメットを持って行きます。
  3. 体力不足
    自分のレベルよりも、難易度の高い山に挑んでしまった場合に起こります。コースタイムと現在地を確認して、登頂を諦めることで防げます。
  4. 高山病
    高山病になってしまうと、歩行することができません。高山病が心配されるのは、2400mを超える山です。このような高山に登るときは、薬を忘れないようにします。
  5. 天候の急変
    風も秒速20mを超えると歩けません。森林限界を越えた稜線では、突風が体をさらう危険があります。計画する山の天気予報をチェックして、時間帯ごとの天候の変化を確認しましょう。


どの山に登るか

自分の登山技術に合った、難易度の山を選びましょう。山の難易度はガイドブックや「グレーディング※」で確認出来ます。山が決まったら、ルートのコースタイムを確認し、初心者なら5~6時間程度のコースを選択しましょう。
※グレーディング
8県、1山系の824ルートが難易度評価されている。(2018年4月時点)

いつどんな日程で行くか

標高と地域で、登山適期が決まります。標高が高い程、北にあればある程、登山適期は短くなります。残雪がある場合は冬山用の装備も必要。安全の為には登山適期に登る事が大切です。ハイシーズンはイベント等も開催され、道路も登山道も渋滞します。特に、登山道での渋滞は、すれ違う為の時間が必要で、余分に時間がかかります。渋滞を考慮して、余裕を持った計画を立てましょう。地域毎の登山適期は以下の通りです。

  1. 北海道 7月~9月までが登山シーズン。大雪山系では2000m級の山が並ぶ。6月でも雪が残っている場合があるので、注意。夏でも低体温症対策が必要。最高峰の旭岳では、6月中旬に山開きが行われ、アイヌのイベントが行われる。
  2. 東北 5月下旬~10月上旬までが登山シーズン。日本の背骨と言われる奥羽山脈と、出羽山脈が中心。2000m程の標高があり、火山帯なので良質な温泉が湧く。日本海側は季節風の影響で、雪が多い。鳥海山では6月から、各登山口の山開きが行われる。日本酒の名産地。
  3. 関東 5月~10月までが登山シーズン。東京からのアクセスが良い。山域も広範囲に広がる為、季節や天候に応じて選択肢が多い。標高も関東山地の2500m級が並んでいるが、丹沢山地のように低く広がる山もある。
  4. 中部 6月~9月までがベストシーズン。3000m級の山々が広がる。高山は夏でも低体温症になる可能性があるので注意。難易度が高く、人気の山が多い。比較的初心者向けの燕岳でも、雪がなくなるのは7月から。
  5. 関西 4月~11月まで登山を楽しむことができる地域。低山が多く、大阪からアクセスが良いのが特徴。地元に親しまれ、山岳信仰の山が多い。特に琵琶湖の東にある伊吹山は、霊山として有名。9合目のスカイテラスでは、この山独自の薬草が入ったそばが食べられる。

誰と行くか

旅行会社などが主催するツアーに参加すれば、経験者にガイドして貰う事が出来ます。しかし、ガイドがいても、北海道のトムラウシで起きた事故のように、遭難は発生しています。ガイド任せにせず、自分の足で登って降りることができる山のツアーに参加しましょう。

どのルートにするか

■地図で調べる


コースを調べるには地図を使うのが一般的です。代表的な2つの地図を紹介します。

■山と高原地図


特徴
登山地図のロングセラー。登山用に考案されている。

メリット
ルートのコースタイム、難所などが表示され、紙質も強い。

デメリット
エリアごとに販売されているので、単独の山の情報が欲しい時は不向き。

■国土地理院地図


特徴
国土地理院が発行する地図。正確な情報が得られる。

メリット
登りたい山だけ地図が得られる。コピーして書き込みをするのに、適している。

デメリット
登山用に作られていないので、コースタイムなどを調べるのに不向き。

■サイトで調べる


代表的な3つのサイトを紹介します。

  1. 地理院地図(電子国土Web)
    とにかく正確で、何も書かれていないのが特徴。プリントアウトして、情報を書き込むのに向いている。
  2. ヤマケイオンライン
    歴史ある登山雑誌「山と渓谷」が運営するサイト。コースタイムなど情報が豊富で、計画を立てる機能も充実している。オンライン前提なので、登山中に使うには、バッテリーの減りに注意。
  3. ヤマレコ
    他人の歩いたコースの情報が豊富。他人の情報なので、コースタイムは人それぞれということを、忘れないように。オフラインで使えるアプリもある。

■調べるポイント


コースを調べるときは、以下のポイントに注目します。

  1. コースタイム 標準的な時間、初心者は1日6時間程度が理想
  2. 難易度 標高やコースタイムから判断される。必要な体力と技術を確認
  3. 避難小屋 休憩や、天候悪化時の避難場所に
  4. 山小屋 あれば装備を減らせ、登山情報をもらうことができる
  5. テント場 余裕をもって到達できるテント場を選ぶ
  6. 水場 携行する水の量を減らせる
  7. 登山道 予定するコースだけでなく、分岐するコースもチェック
  8. 危険箇所 あらかじめ用心すれば、ケガのリスクを減らせる
  9. 渡渉箇所 増水で靴が濡れることも考えられる

■登山計画書


登るルートが決定したら、登山計画書を作成します。ネットでひな形をダウンロードして、記入してください。登山計画書は万が一の時に有効です。捜索になった時、登山計画書があると、捜索範囲を限定できるからです。助かる可能性が高まり、レスキューヘリの料金も格安になります。登山計画書は、警察や家族に残しておきましょう。
登山計画書のダウンロードができるサイト

■計画の変更


天候の急変など、状況に応じて計画を変更しましょう。台風の時期などは、進路によって予報が変わることがあります。人間は自然には勝てません。無理に計画を実行するよりも、温泉やグルメを楽しむなど、柔軟な姿勢が大切です。


計画例

■利尻山


利尻山は最北の百名山として有名です。シーズンは7~9月と短く、フェリーを挟むので気軽に行くことは難しい場所。夏のイベントとして計画すると、旅気分が高まります。

移動時間
東京から新千歳空港まで1時間40分
レンタカーで稚内まで5時間11分
フェリーで利尻島まで1時間40分
(夏季は朝、昼、夕方の3便)

イベント
8月11日の 「うにうにフェスティバル」で、利尻のウニを格安で食べることができます。登山道まではタクシーか、旅館の送迎を利用。天気が良ければ360度の海を見ることができます。

保険
保険はモンベルの山岳保険を利用。1泊2日まで保障してくれる、500円のプランを、インターネットで申し込みます。

予定
東京出発のモデルケース
夜、東京を出発、札幌で1泊。
2日目、朝からレンタカーで稚内へ。フェリーターミナルの駐車場に止める。10:50の便に乗り、うにうにフェスティバルでウニを堪能。レンタルバイクで島を1周できる。登山口に近い旅館に宿泊。
3日目、宿の車で登山口へ。山頂で360度のパノラマを体験。下山して、お土産はフェリーターミナルで購入。帰りは14:35の便に乗る。稚内には17:35着。札幌まで走り、レンタカーを返却。
4日目、東京へ帰る。

費用
飛行機代往復 3~4万円
札幌2泊 2万円
レンタカー48時間 2~3万円
利尻島宿泊 1万円
フェリー往復 4480円
保険 500円
合計 10万4980円

宿泊
旅館:ひなげし館
全館和室の温泉宿。登山口までの送迎もあり。

地図
地理院地図

まとめ

  1. 自分の技術・体力・経験に応じた難易度の山に登る。
  2. 登山適期に登る。また、計画は悪天候などの状況に合わせて、変更や場合によっては中止する。
  3. ツアー等を活用する。
  4. ルートは地図・ガイドブック・サイト等で難易度・コースタイム・危険箇所・目印等を事前に確認する。