年間3111人もの山岳遭難者!登山で遭遇する2つの危険への備えとは?

山岳事故の状況

■発生状況


全国、1年間で3111人※もの山岳遭難が発生しています。入山目的は約8割が登山で、発生状況では3割が「道迷い」、年齢別では60代から70代にかけての登山者が全体の約5割を占めています。また、最も発生件数の多い都道府県は長野県。
※平成29年実績。(警察庁生活安全局地域課:「平成29年における山岳遭難の概況」より)




■原因


山岳遭難の原因は自然と人の2つあります。

□自然による原因

登山中の急な天候の変化(例えば落雷、降雪、突風など)。予期しなかった突然の気象災害。さらに、過去、北海道大雪山系で頻発したヒグマによる獣害など、害獣による遭難事故を含め、自然環境が関わっているものです。

□人による原因

主な原因は「準備不足」、「無理な計画」、「能力の不足」、「判断間違い」です。「道迷い」が遭難原因の3割を占めます。判断力を高めるには経験が必要ですが、自分に合った計画を立て、GPSや地図とコンパスを準備して、読図が出来れば遭難をある程度は防止する事ができます。



自然への対策

■標高による対策


危険は、高山だけではなく、低山にも存在します。

□低山での危険

標高が1000mに満たない「低山」にも危険は存在します。ハイキングに最適な里山や標高が600m前後の身近なコースでも遭難は発生するので、以下の対応をしましょう。

  1. 低山にも、転落の危険のある岩山や、滑落しやすい尾根道が多いので、ルート選択は十分慎重に行う。日没後の行動は中止する。
  2. 真夏の低山は高温になります。発汗に伴う脱水で熱中症を発症しやすいので、こまめに水分補給を行う。体調が回復しない場合には直ちに活動を中止して下山する。
  3. 「道迷い」は低山でも発生するので、必ず地図やコンパスを持参する。特に地図は最新版のものを携行する。
  4. 気温の高い低山は、動物や虫の活動が活発になります。マムシやスズメバチは毒を持つので、不用意に登山道を外れて藪の中などには入らない。

□高山での危険

  1. 富士山など3000m超級の高山では「高山病」を予防する為、高度順応を必ず行う。ゆっくり登り、場合によっては高所で数日滞在するなど体を順応させる。薬もあるので活用しましょう。
  2. 高山は低山に比べて格段に自然環境が厳しいので、5月初旬でも標高2000m以上の稜線は未だに真冬。季節外れの降雪もあるので、完全な防寒対策を準備する。
  3. 標高の高い場所ほど落雷や突風などの「気象変化」が激しいため、早立ち、早到着が原則。少しでも気象変化が見られたら、直ちに活動を中止して安全な場所に避難する。


■体力消耗への対策


水と光への対策で体力消耗を防ぐ事が出来ます。ポイントは以下の2点です。

  1. 水への対策
    遠雷は激しい雨の兆しです。雨に濡れて体温を下げると、体力の低下につながり危険です。雷の音が聞こえたら、体を濡らさないようにレインウェアの着用が必要です。夏山でも標高が高いと、気温は零下となります。汗で体が濡れたままにならないように、登山専用のアンダーウェアーを着用しましょう。吸湿性・速乾性に優れ、冷えを防いでくれるからです。 また、急な降雨は落雷の危険もあるので、安全な場所に避難しましょう。
  2. 光への対策
    直射日光は山中で消耗した体にはこたえます。素肌をさらさないようにするか、日焼け止めクリームを塗りましょう。また、残雪期は紫外線から目を守る為にサングラスが必要です。

■虫への対策


気温上昇と伴に、活発になる虫。刺されるので蜂にはなるべく近付かないようにしましょう。薮にもマダニが潜みます。登山道を不用意に外れるのは危険です。また、長袖長ズボンを着用し、虫除けスプレーを体に予めかけておきましょう。

■動物への対策


山中には熊、猪、猿、ヘビなどの野生動物が生息しています。ふいに遭遇しても刺激を与えないようにしましょう。予期せぬ遭遇を避ける為に、警笛や熊鈴の利用も効果的です。また、渓流沿いや湿った場所ではスパッツを着用しましょう。マムシは、じめじめした湿地を好むからです。

■植物への対策


不用意に素手で木肌や植物に触れないようにしましょう。漆などで皮膚がかぶれるからです。キノコや山菜類は有毒のものもあるので、持ち帰ったり、むやみに口にしたりしないよう注意しましょう。


行動と登山装備での対策

■正しい登山計画をたてる


登山の危険を回避するには、まず何よりも「正しい登山プラン」を立てることが大切。

□時間管理

登山の基本は「早出と早到着」。特に夏山時期、午前中は比較的天候が安定しているので、つい油断して出発時刻が遅れがち。以下のように行動しましょう。

  1. 天候が変わりやすく不安定な高山では、午後に突風や落雷が発生します。事前に天気予報を確認し、危険な場合は登山を中止しましょう。
  2. 山行は明け方に出発し、午後はなるべく早い時間での山小屋到着やテント設営をしましょう。

□経験と体力

危険回避の為に、自分の経験と体力に応じた登山ルートを選びましょう。ポイントは以下の通り。

  1. 事前の下調べを入念に行ないましょう。
    ・標高差
    ・ルート上の危険箇所の有無
    ・危険な場所(ガレ場や鎖場、過去の事故の発生箇所等)
    ・エスケープルート
    ・避難小屋の位置
  2. 危険なルートを避けましょう。
    予め山岳名と遭難事故のキーワードを使って検索し、登山ルートや山岳の危険度を調べましょう。また、登山ガイドブックを何冊か購入して見ましょう。鎖場や転落危険箇所のある登山ルートは中級者には不向きです。
    例:北アルプス「槍ヶ岳」に続く「鎌尾根ルート」
  3. 必要以上の体力を要するルートは避けましょう。
    例:「燕岳」(北アルプス)
    登りは中級者向けとはいえ、登山口からの標高差は約1000m以上もあって相当な体力が必要です。

□山中での宿泊

ルートによって歩行時間が長い場合は、山中での宿泊が必要となります。テント泊、山小屋泊の選択肢がありますが、登山中級者には山小屋泊がオススメです。理由はテント分の装備の軽量化が可能で、悪天候やアクシデントなどの危険への対応がし易いからです。場所によっては管理人常駐の山小屋もあります。


■必須装備を用意する


必要な装備を忘れないようにしましょう。

□地図とコンパス、ヘッドライト

ガスがかかった稜線上や暗闇が迫った山中では、地図とコンパス、そしてヘッドライトは必需品。次の対策が必要です。

  1. ルートファィンデイングの困難な場所では、こまめに地図やコンパスを利用してルートを確認し、登山道を外れないようにする。
  2. 止むを得ず、暗闇で行動が必要な場合の為にヘッドランプを持参する。また、予備のバッテリー、乾電池も持参しましょう。

□行動食と予備の食料

標高差の大きな高山や歩行時間の長い登山ルートを選んだ場合、最も気を付けたいのが栄養不足による「しゃりバテ」です。行動食と予備の食料は必ず持参しましょう。

  1. ウェストバッグやサイドポケットなど、取り出しやすい場所に行動食を小分けしてパッキングし、こまめに食べましょう。登山では相当なカロリーを消費するからです。
  2. 最低3日分程度の行動食を用意しておきましょう。負傷や道迷いに対応できるようにする為です。

□軽アイゼン

残雪が覆っている山の斜面を通過する場合に、必要になるのが軽アイゼン。

  1. 残雪の下部が崖下につながる場所や、スリップしたら数十メートルも滑落するような危険な場所では、転落・滑落防止のために必ず軽アイゼンを装着して慎重にトラバースしましょう。
  2. 軽アイゼンを装着している時は転倒に注意。踏み跡をしっかりたどり、慎重に爪を雪に食い込ませながら歩くのがポイント。

■ウェアで体を守る


汗で濡れないアンダーウェアや透湿・防水素材のアウターは登山の必需品。それ以外に下記のような注意が必要。

□傷・虫刺されから体を守る

長袖長ズボンを着用しましょう。転倒での擦り傷や虫刺されから体を守る為です。

□直射日光から体を守る

  1. 日焼けによる体力消耗を防ぐ為に、素肌の露出は避け、長袖長ズボンを着用しましょう。
  2. サングラスを装着しましょう。紫外線を防ぐ為です。

■危険な行動を避ける


避けたい危険な登山中の行動は以下の通りです。

□悪天候時の行動継続

悪天時に不用意に行動を継続するのは危険です。登山者には次のような対策が必要。

  1. ルートを見失った場合はむやみに動き回らず、体力を温存し救助隊を待ちましょう。
  2. 雷が発生した場合は不用意に行動せず、岩陰に低くうずくまって、雷雲が通り過ぎるのをじっと待ちましょう。
  3. 悪天候時は行動を控え、安全な場所を見つけて、ビバークしましょう。

□道迷い、ルート間違い

道迷いやルート選定ミスは極めて危険な状況です。そんな状況から抜け出す方法は次の通り。

  1. 登山コースを見失ったら、必ずいったんその場所で立ち止まりましょう。緊急の場合にはビバークも必要です。体力消耗を避け、天候の回復を待って行動を再開しましょう。自力で不可能な場合は、救助隊を待ちましょう。
  2. 迷い易い山では、GPSで自分の位置情報を確認しながら進みましょう。不安が残る場合は、山岳ガイドに同行してもらうと安心です。

□残雪での滑落を避ける

初夏から晩秋にかけて、谷筋にはたっぷり雪が残っています。そうした残雪箇所では滑落を防ぐため軽アイゼンが必須ですが、歩き方にも対策が必要。

  1. 必ず踏み跡を辿って歩きましょう。誰も足を踏み入れていない場所は危険だからです。特に、盛夏から晩秋にかけて、谷筋の残雪箇所には、下が切れ落ちた「スノーブリッジ」が口を開けている場合があり、とても危険です。
  2. 斜面を覆っている残雪箇所では、前を歩く登山者と一定の間隔を開けて通過しましょう。前を歩く登山者の転倒時に巻き込まれないようにする為です。





まとめ


  1. 登山の危険は自然環境や動植物、登山者自身の装備や行動に潜む。
  2. 天候急変と有害動植物に関する基礎的知識を確実に習得することが必須事項。
  3. 危険を回避する装備を確実に携行し、万一に備えることが安全登山の基本。
  4. 登山行動の基本を身に付け、予想されるリスクを最大限回避。
  5. s