山小屋に泊まって快適な登山を!暖かい食事と寝具利用で山登りも安全

山麓や稜線上の山小屋には、無人の「避難小屋」の他に、管理人が常駐している設備の整った「営業小屋」が全国に点在しています。特に管理人のいる山小屋なら温かい食事と暖房、水場やトイレも完備されており、安全で快適な縦走登山にチャレンジすることも可能です。

山小屋泊登山のメリット

山小屋に泊まって登山することには、装備の軽量化や美味しい食事、水の確保など様々なメリットがあります。

■装備の軽量化


  1. テントが不要
    ソロテントの重量は乾燥した状態で1kg〜4kgです。雨天での利用後は生地が水分を含み、重量が2倍の2kg〜8kg程になる場合も有ります。1泊程度の山行ではザックの総重量は約10kgで、テントの重量は大きな割合を占めます。山小屋泊にするとテントが不要となり、1kg〜8kgもの大幅な軽量化が可能となります。
  2. 食料と水を削減
    食事付きの山小屋に泊まれば、宿泊中の食事分の荷物を減らせます。特に、食事準備用の水を減らせるので負担が軽減されます。
  3. トイレの確保
    屋内で用を済ませられるので、女性にも安心です。特に稜線では遮蔽物が少ないので、トイレが無いと苦労します。

■安全の確保


山小屋に泊まることの最も大きなメリットは、登山者自身の安全を確保できることです。

  1. 突然の天候急変も安心
    高山は気温が低く、台風・大雨・落雷で、更に 過酷な環境となります。設備の充実した建物の中にいる事で、安全の確保が可能です。
  2. 危険な害獣被害を防ぐ
    野生動物は食料を求めます。しかし、 テントは薄く、野生動物は侵入出来ます。堅牢な山小屋にいる事で、熊・猪・猿等に襲われる事無く、安心して睡眠を取る事ができます。
  3. 体調を保てる
    テントは断熱性が低く、気温変化の影響を受けます。断熱マットを敷いても冷気を防ぐ事が出来ず、体調を保つ事が難しいのが実態です。しかし、山小屋であれば、暖房設備が有ります。濡れた衣服を乾かし、睡眠も十分にとる事が可能です。

■管理人との大切な交流


山小屋に泊まることは、単に宿泊するという事にとどまりません。その場所に集う様々な登山者や、何よりも山のエキスパートである小屋の管理人との大切な交流ができます。

  1. 山の情報の入手
    山小屋の管理人は、山域の様々な情報を持っています。天候の特性や、過去の遭難事故等の知識。自然・動植物にも詳しく、自身の経験も豊富です。
  2. 登山者の遭難予防
    管理人とコミュニケーションを持つことは、登山者の遭難事故の予防にも役立ちます。管理人は登山者から、下山日時やルートを聞き出し、注意すべき危険箇所やポイントをアドバイスしてくれます。ウェアの特徴やパーティーの人数まで記憶していますので、万が一事故が発生した時に、誰よりも貴重な情報を捜索隊に提供してくれます。

山小屋の種類と機能

山小屋は、大きく別けると 「管理人のいる山小屋」「無人の山小屋」の2種類に分けられます。

■管理人のいる山小屋


2種類の立地が有ります。 「麓」「山頂付近や稜線」です。

□麓にある山小屋

  1. 利用可能時期
    積雪期も含め、ほぼ通年利用可能です。
  2. 設備
    基本的に相部屋ですが、最近、個室利用ができる山小屋も増加しています。毛布や布団も用意されているので、 寝具が不要です。トイレも完備され、 洗浄機付きの場合も有ります。石油ストーブや薪ストーブなどの暖房も完備され、中には冷房が設置されている山小屋も有ります。
  3. 宿泊上の留意点
    麓にあるとは言っても、旅館とは違い、山小屋です。 設備はトイレ有り、風呂なしが多いです。注意したいのが、到着時刻と出発時刻です。14時から16時には到着しましょう。特に、食事付きの山小屋では、17時前後に夕食が始まります。出発時刻も、午前4時前に物音を立てて出発支度を始めるのはマナー違反です。尚、山小屋の消灯時間は、概ね20時から21時台です。22時に消灯する山小屋も見られますが、それ以降灯りをともしておくのは、他の登山客に迷惑をかけるのでやめましょう。
  4. 食事の有無
    麓にある山小屋のほとんどは食事付きです。霧ヶ峰のコロボックルヒュッテのように「特製チーズケーキ」のデザートやコーヒーを出してくれる山小屋も有ります。食事をする際に注意したいのは、極力残さず食べるということ。残すとゴミとなり、山小屋の処分の手間を増します。水は麓でも確保が難しい山域が有るので、無駄無く利用しましょう。
  5. 予約及び料金


    麓にある山小屋を利用する場合には、必ず 予約してから出かけましょう。山頂や稜線上の山小屋であれば、緊急避難先として予約が不要でも泊めてくれます。けれど、命の危険が伴わない場合や、山小屋が満室の場合には宿泊を拒否される場合があります。そうした事態を招かないためにも必ず事前の予約が必要です。インターネットで空室状況を確認し、メールで事前予約が可能な山小屋も増えています。さて気になる宿泊料金ですが、下記にその一例をご紹介します。
    八ヶ岳「しらびそ小屋」/一泊二食付き 8500円/素泊まり 5500円/弁当 700円
    安達太良山「くろがね小屋」/一泊二食付き 6320円/素泊まり 3960円
    富士山五合目「山荘菊屋」/一泊二食付き 7200円/素泊まり 5000円
  6. その他注意点
    繁忙期の山小屋は大混雑します。一畳の畳に3人で横になる、などという例さえあるほど。今では男女別の部屋に割り当てられることがほとんどですが、時期によってはそれも叶わない場合が発生します。

□山頂付近にある山小屋

  1. 利用可能時期
    麓の山小屋とは異なり、利用可能な期間は短めです。頂上付近の山小屋が営業開始するのは、4月下旬から5月上旬のゴールデンウィーク期間からです。そこから初雪の降り始める11月下旬までが一般的な営業期間です。山頂や稜線上では、半年近くも営業する山小屋ばかりではありません。例えば富士山の8号5尺にある「御来光館」(標高3450m)の営業期間は、7月1日〜9月10日の約2ヶ月間限定です。他にも北アルプス「剱沢小屋」の場合、営業は7月上旬から10月上旬、槍ヶ岳山荘も10月中旬には山小屋を閉鎖します。
  2. 設備
    毛布のみで布団が無いなど、 麓の山小屋より寝具が簡素な場合が多いです。就寝スペースは限られているので、狭い場所にも大勢で眠ることが出来るよう配慮されています。 トイレ設置がまれに無い場合が有ります。心配な人は「携帯トイレ」を持参しましょう。
  3. 宿泊上の留意点


    麓と異なる点は、山小屋への到着時間を早める事です。麓の山小屋よりも1・2時間は早い、 14時〜15時に到着しましょう。山の天候は変わりやすく、急な落雷や霧が発生する場合もあるからです。余裕を持って安全な時間帯に山小屋に到着しましょう。
  4. 食事
    麓に比べると、とても質素です。ただし、中には北アルプスにある「燕山荘」のような豪華な食事を提供してくれる山小屋も有ります。
  5. 予約及び料金


    山頂や稜線は電気が通じておらず、電話での予約が多いです。クレジットカードは使えず、 支払は現金です。また、料金は麓の山小屋に比べて若干高めです。一例を挙げてみると下記の通りです。
    小屋の名前 利用料金
    赤岳頂上山荘 一泊二食 8500円 素泊まり 5300円から
    北アルプス「白馬館」 一泊二食付き 10300円 素泊まり 6900円 一泊三食付き 11300円 弁当 1000円
    北アルプス「燕山荘」 一泊二食付き 10300円 素泊まり 7000円
    一泊三食付き 弁当 1200円
  6. その他注意点
    標高の高い場所にある山小屋では、携帯電話のつながらない山小屋も多く見られます。その中でdocomoやauの携帯は、他社の携帯に比べて比較的つながり易いです。また、 山小屋での携帯の充電については、ほぼできないものと考え、予備のバッテリーを持って行くのが無難です。ただ北アルプスの「燕山荘」(1回百円)や富士山の「砂走館」のように規模の大きな山小屋なら、有料で充電させてくれる山小屋も中にはあります。


■無人の山小屋


無人の山小屋には「避難小屋」と、かつては営業されていたものの、事情によって現在「放置されている山小屋」があります。

  1. 避難小屋


    避難小屋には「通年使用可能な避難小屋」と「特定の期間のみ開放されている避難小屋」の2種類があります。避難小屋の性質上、予約は無しで泊まることが出来ますが、スペースが限られているので、全員を収容しきれない場合が予想されます。そうした不測の場合に備えて、 ツェルトや簡易テントを持参した方が無難です。原則、 無料ですが、施設の維持費・協賛金という形で、1000円から2000円程度の寄付を呼びかけている避難小屋もあります。水場・トイレ・装備(毛布・寝具)は無い場合が多いです。
  2. 放置された山小屋
    無人の山小屋には、避難小屋以外に、かつて山小屋として営業していた建物が、そのままの形で残された山小屋があります。奥秩父両神山の麓にある「清滝小屋」が一例です。経営者がいなくなってしまったことにより利用料金は取られません。自治体が管理しており避難小屋として一般開放されています。水場はもちろん、清潔な水洗トイレも、毛布でさえもそのまま利用可能です。

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■平標山登山と「平標山の家」


群馬県と新潟県にまたがる、上越国境の山並みのひとつが標高1983mの「平標山(たいらっぴょうやま)」です。登りは急登が続くものの、一面見渡す限りの長大な稜線と大展望の山頂、そして初夏から秋にかけての高山植物の大群落。平標山は北関東の花の名山です。その平標山から、仙ノ倉山(標高2026m)の山麓を見渡す尾根の途中に、「平標山の家」がぽつんと建っています。収容人数は25人とこぢんまりした山小屋ですが、営業小屋と避難小屋に分かれた二棟が連結されています。営業小屋は2食付きで1泊料金が7500円。避難小屋は食事も布団も付きませんが、協力金として一人2000円で利用可能です。避難小屋と言っても室内は大変綺麗で、板の間は快適。ドアの向こうにあるトイレは汲み取りながら清潔で、避難小屋にニオイが全く漏れてきません。室内には、煮炊きできる防火仕様のテーブルと木製のイスが設けられ、室内で調理をする事もできます。窓の外には西と南に2箇所テラスが設けられ、そこに置かれたテーブルとイスからは、目前に迫る「エビス大黒ノ頭」の雄大な山容が見事です。さらに、営業小屋の前には、冷たく美味しい「仙平清水」が流れています。

所在地
群馬県利根郡みなかみ待ち相俣

連絡先
みなかみ町観光商工課
Tel:0278-62-2111

営業期間
4月下旬から11月上旬

利用料金
営業小屋 1泊2食付き 7800円 素泊まり 4000円 避難小屋 2000円

収容人数
25人

■燧ヶ岳登山と「尾瀬長蔵小屋」


尾瀬国立公園内にある標高2356mの「燧ヶ岳(ひうちがたけ)」は、日本百名山の一つであり、東北地方の最高峰です。尾瀬ヶ原をはさんで花の名山「至仏山」と一対で並ぶ燧ヶ岳は、雄々しく男性的な山ですが、麓に広がる尾瀬沼に映し出された優美な姿が登山者の心を魅了します。歩いてしかたどり着くことのできない「尾瀬沼」の畔に立っているのが「長蔵小屋」です。もともと長蔵小屋は、明治23年「平野長蔵」によって湖畔に建てられた山小屋。大正14年、沼尻から現在の尾瀬沼東岸に移築されました。当時、尾瀬で唯一の山小屋として営業を始め、現在に至るまで多くの岳人に愛されてきました。尾瀬の自然を長蔵とその子「長英」、そして36才という若さにも関わらず、雪の大清水の峠で遭難死した孫の「長靖」。その物語は書籍だけでなくNHKでもドラマ化され、大反響を呼びました。現在も長靖の妻や子どもたちが切り盛りしている長蔵小屋は、 尾瀬随一の規模と設備を兼ね備えた山小屋です。囲炉裏を切った暖炉や 洗浄機付き水洗トイレ、登山者が汗を流す「お風呂」まで完備した 快適な山小屋に生まれ変わっています。けれど、尾瀬の自然を守り通した平野長蔵の魂は、今でもこの長蔵小屋に生き続けています。

所在地
福島県南会津郡檜枝岐村尾瀬沼畔1

Tel
0278-58-7100

営業期間
例年4月下旬から10月下旬

利用料金
夕食付き1泊 9000円(税込) 素泊まり1泊 6000円

収容人数
180人

■大朝日岳と大朝日岳山頂避難小屋


新潟県と山形県の県境に聳える標高1870mの「大朝日岳」。夏はお花畑が、秋は錦秋の紅葉に覆われる長大でたおやかな山脈の盟主です。その大朝日岳の山頂直下、稜線上1785mの場所に建てられているのが、眺望抜群の「大朝日岳山頂避難小屋」です。平成11年に立て替えられた避難小屋の収容人数は100人。冬期、周辺では遭難事故が多発しており、登山者にとってかけがえのない避難小屋となっています。避難小屋のため営業小屋とは異なり、食事はできません。布団も寝具もないので寝袋が必要です。小屋の内部は、屋根裏部屋を含めると3階建てです。また、小屋付近には水場も無いかわり、北西の中岳方面に15分ほど下った場所に、名水「金玉水(きんぎょくすい)」があります。ただし、冬期は建物西側のトイレのみ使用可能となっているので注意が必要です。その一方、夏季には朝日連峰の「生き字引」と言われている二人の管理人が交替で常駐し、登山者の安全に目を配ってくれています。

所在地
山形県西村山郡朝日町白倉

連絡先
大江山岳会

営業期間
通年

利用料金
宿泊の場合 協力金 1500円

収容人数
100人





まとめ

  1. アプローチの長い山域や縦走には山小屋泊登山が便利。
  2. 管理人のいる尾根沿いの山小屋なら縦走登山も安心。
  3. 山小屋のルールとマナーを守って快適登山
  4. 山小屋泊に必要な最低限の装備と日程を組むことが大切。